風を測るサイクルコンピュータを作ってみたい。ロードバイク用「対気速度計」開発のはじまり

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ロードバイクに乗っていると、同じ 30km/h でも「今日はやけに重いな」と感じる日があります。

逆に、あまり踏んでいないのにスピードだけはよく出る日もあります。

正直、最初のころはそれを単純に「今日は調子が悪い」「今日は調子がいい」と受け取っていました。でも、ロードバイクに長く乗っていると、だんだん分かってきます。

それ、たぶん脚だけの問題ではありません。

風です。

向かい風の日の 30km/h と、追い風の日の 30km/h は、サイクルコンピュータ上では同じ数字です。でも身体が受けている負荷はまったく違います。平坦なのに妙にきつい日、平均速度は良いのに妙に楽だった日。その裏には、いつも「空気に対してどれだけ速く進んでいるか」が隠れています。

この記事で書きたいこと

  • なぜロードバイクで対気速度を測りたくなったのか
  • 対地速度だけでは見えないもの
  • トレーニングやフォーム改善にどう使えそうか
  • ピトー管と差圧センサーで何を作ろうとしているのか
  • まず最初にどこまで作るつもりなのか

対地速度だけでは、風の影響が見えない

今のサイクルコンピュータが表示してくれる速度は、基本的には「対地速度」です。

ホイールの回転数から計算しても、GPSの移動距離から計算しても、見ているのは地面に対してどれだけ進んだかです。これはもちろん大事です。目的地までの時間も、平均速度も、区間タイムも、全部この数字がないと分かりません。

でも、ロードバイクで一番しんどい抵抗は何かというと、やっぱり空気抵抗です。

そして空気抵抗は、地面に対する速度ではなく、空気に対する速度で決まります。

対地速度と対気速度の違い
状況 対地速度 対気速度のイメージ
無風 30km/h なし 30km/h
向かい風 30km/h 10km/h 40km/h
追い風 30km/h 10km/h 20km/h

同じ 30km/h でも、向かい風なら空気に対しては 40km/h 相当で突っ込んでいることになります。逆に追い風なら、身体が受けている空気の流れは 20km/h 相当です。

この差は大きいです。

空気抵抗は速度が上がるほど急に増えます。だから向かい風の日は、サイクルコンピュータの数字以上に身体へ負荷がかかっています。逆に追い風の日は、平均速度だけを見ると自分が強くなったように見えることもあります。

でも、だからこそ。

対地速度とは別に、空気に対する速度を見てみたいのです。

「今日は遅かった」を、もう少し正しく見たい

向かい風の日に平均速度が落ちると、どうしても少しがっかりします。

「今日は全然進まなかったな」

「脚がなかったのかな」

そんなふうに思いがちです。

でも、もし対地速度が 28km/h でも、対気速度が 38km/h で、心拍もパワーも高かったとしたらどうでしょうか。

それは「遅いライド」ではなく、強い向かい風の中でしっかり負荷をかけたトレーニングだった、と考えた方が自然です。

対気速度を使った走行ログ分析

逆に、対地速度が 38km/h 出ていても、対気速度が 25km/h 程度で、心拍もパワーも低ければ、追い風にかなり助けられていた可能性があります。

もちろん、それはそれで気持ちいいライドです。追い風で気持ちよく進むのもロードバイクの楽しさです。

ただ、トレーニングとして振り返るなら、平均速度だけで一喜一憂するのは少し危うい。風の助けを受けた速さなのか、向かい風の中で粘った強さなのか。そこを分けて見たいのです。

対気速度計は、速いか遅いかを判定するための道具ではありません。

速度という結果を、風と負荷に分解して読むための道具です。

対気速度が見えると、何ができるのか

実走で使える対気速度のログが取れたら、試したいことが3つあります。

パワーメーターがなくても、負荷のヒントになる

パワーメーターは本当に便利です。自分がどれくらい仕事をしているのかを直接見られるので、トレーニングの軸として非常に強い。ただ、価格もそれなりにしますし、すべての自転車に付けられるわけではありません。

対気速度計は、パワーメーターの代わりにはなりません。それでも、平坦路や高速域では空気抵抗が支配的になるので、対気速度は負荷を理解するための大きなヒントになります。

たとえば、こんな使い方です。

  • 向かい風で速度が落ちた日も、対気速度が高ければ「ちゃんと負荷はかかっていた」と判断する
  • 追い風で出た自己ベストを、風の助け込みで冷静に見る
  • 平坦巡航で、対地速度ではなく対気速度を目安に走ってみる
  • ロングライドで、向かい風区間に無理をしすぎないようにする

これができれば、屋外ライドの振り返りがかなり変わるはずです。

エアロフォームの違いを、実走で確かめる

ロードバイクは、姿勢でかなり変わります。ブラケットを握って上体を起こしている時。下ハンドルを持った時。肘を曲げて低く構えた時。見た目には小さな差でも、空気抵抗には大きく効いています。

ただ、その違いを普段の道で確かめるのは難しい。風向きは変わるし、信号も車もあります。実走は風洞ではありません。

それでも、対気速度とパワーを一緒に記録できれば、かなり面白いことができそうです。

同じパワーで、どの姿勢が速く進むのか。同じ対気速度を維持するのに、どの姿勢が楽なのか。厳密な空力試験ではなくても、「このフォーム、本当に効いているのかな?」を考える材料になります。

同じ見方は機材にも使えます。ホイール、ウェア、ヘルメット、ハンドルまわりの装備。高価なものを買ったから速くなる、というよりも、自分の走り方で本当に差が出るのかを見てみたいのです。

ドラフティングの効果を数字で見る

グループライドで前の人の後ろにつくと、明らかに楽になります。ロードバイクに乗っている人なら、かなり早い段階で体感することだと思います。

でも、どれくらい楽になっているのか。どの距離で一番効くのか。横風の時はどこに入ると楽なのか。このあたりは、意外と感覚に頼っています。

ドラフティング効果の可視化

対気速度計を付ければ、前に出た瞬間、後ろに下がった瞬間、横風を受けた瞬間に、空気の流れがどう変わるかをログとして見られます。同じ対地速度 35km/h でも、単独走行と前走者の後方では、受ける空気の流れが違うからです。

ピトー管の取り付け位置によっては乱流の影響を受けるはずなので、ここは慎重に見ないといけません。それでも、ドラフティングの効果が数字として見えたら、グループライドでの位置取りや、横風時の安全な走り方を考える材料になります。

作ろうとしているもの

今回作りたいのは、ピトー管で受けた圧力差を差圧センサーで読み取り、マイコンで対気速度に変換し、走行ログとして保存する小さな計測器です。

最初から完成度の高い製品を作るつもりはありません。

まずは「走行中の差圧が取れる」「それっぽい対気速度に変換できる」「GPSの対地速度と並べて見られる」くらいまで持っていきたいです。

ピトー管式対気速度計の構成

構成はシンプルに考えています。

  • ピトー管
  • 差圧センサー
  • マイコン
  • 電源
  • 走行ログ保存
  • 必要に応じた表示部

考え方は航空機の対気速度計と同じです。空気の流れを受けると、ピトー管の全圧と静圧の間に差が出ます。この差圧から動圧を求め、空気密度を使って速度に変換します。

v = sqrt(2q / rho)

v は対気速度、q は動圧、rho は空気密度です。

気温や気圧で空気密度は変わるので、ちゃんとやるなら補正も必要です。ただ、最初からそこまで追い込むより、まずは実走で使えるログが取れるかどうかを見たいと思っています。

実は、部品の選定と調達はすでに動き始めています。このあたりの顛末は、次回の開発編で書くつもりです。

ロードバイクに付けるからこその難しさ

ピトー管で測る、と言うだけなら話は単純そうに聞こえます。

でも、ロードバイクに付けるとなると、たぶんいろいろ難しいです。

まず取り付け位置です。ハンドルまわりは、手、腕、フレーム、ホイールの影響で空気がかなり乱れています。真正面からきれいな風だけを受けられる場所は、思ったより少ないはずです。

次に横風です。前向きのピトー管は真正面の風には分かりやすく反応しますが、斜め風や横風では誤差が出ます。ロードバイクでは横風の影響も大きいので、ここは避けて通れません。

さらに、屋外で使う機材としての問題もあります。

雨、泥、虫、ほこり。振動。チューブの取り回し。センサーのゼロ点ずれ。低速域でのノイズ。

たぶん、最初からきれいな数字は出ません。

でも、だからこそ面白い。

センサーの値が揺れる。ゼロ点がずれる。取り付け場所で値が変わる。そういう失敗も含めて、開発ログとして残していきたいと思っています。

最初のゴール

この開発の最初のゴールは、完璧な対気速度計を作ることではありません。

まずは、実走中の差圧を取り、対気速度らしい値に変換し、GPSなどから得た対地速度と並べて見られるようにすること。

そこまでできれば、次のことを試せます。

  • 向かい風の日に対気速度がどう出るか
  • 追い風の日に対地速度との差がどう見えるか
  • 姿勢を変えた時に値が変わるか
  • 前走者の後ろについた時に動圧が下がるか
  • 取り付け位置でどれくらい結果が変わるか

そのログを見れば、次に何を直すべきかが分かるはずです。

ゼロ点補正、ノイズ処理、空気密度補正、表示UI、パワーや心拍との統合。やることはたくさんあります。

でも、まずは一歩目です。

風を測る自転車パーツになるかもしれない

平均速度は分かりやすい数字です。

だからこそ、ついそれだけで自分の走りを評価してしまいます。

でも実際のロードバイクは、風に大きく左右されます。向かい風で粘った走りが数字上は遅く見え、追い風に乗った走りが自己ベストとして記録されることもあります。

そこにはいつも、地面に対する速度と、空気に対する速度のズレがあります。

そのズレを見えるようにしたい。

今回作ろうとしているものは、単なる速度計というより「風を測るための自転車パーツ」なのかもしれません。

まずは動くものを作ります。そして実走でログを取り、風の中で数字がどう変わるのかを見ていきます。

うまくいくかどうかは、まだ分かりません。

でも、ロードバイクの楽しみ方が少し広がる予感があります。

次回予告: 対気速度計開発・部品調達編。実際に動くものを作るために何を選び、米国在住の状態でどう取り寄せたのか。電子工作未経験のエンジニアが手を動かし始めた記録を書きます。

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